サウスポー・キラー | 今月の10冊

サウスポー・キラー

▼この本に関する情報▼
サウスポー・キラー/水原 秀策 著(宝島社)

 高校時代、プロ野球の全12球団がいえず、クラスメートに馬鹿にされていた山下です。
 正直いって、幼い頃からプロ野球が好きじゃない。とはいえ、野球を題材としたドラマは大好きで、往年のスポ根マンガ、『ドカベン』や『キャプテン』なんて、今でも読み返しては泣いている。

 今回ご紹介するのは、『このミステリーがすごい!』第三回大賞受賞作品である、水原秀策著「サウスポー・キラー」だ。

 著作の帯に付された作品紹介から引用しよう。
「旧弊な体質が抜けない人気プロ野球チームの中で孤軍奮闘する、クールな頭脳派ピッチャー。彼は奇妙な脅迫事件に巻き込まれていく……犯人の狙いはいったい何なのか?」

 旧弊な体質で人気プロ野球といえばジャイアンツ。実際、作品を読み進めていくと、登場人物のモデルを読者は確信的に知ることになるだろう。作中登場するオリオールズは巨人だし、野生の感に頼り采配を振るう、往年の名選手である監督は長嶋茂雄だ。なるほど、こいつはナベツネだって人物も登場する。
 
 しかし、この作品はプロ野球界の暗部を告発する社会派小説ではない。あくまでもエンターテーメントなミステリー作品だ。主人公である沢村は一流大学を卒業したクールな左投手、そんな彼が奇妙な脅迫事件に巻き込まれ、八百長疑惑の汚名をきてしまう。四面楚歌の中、沢村は自分をはめた人間に立ち向かっていく。
 
 実際のプロ野球を見ても、3時間以上かかる試合には我慢ができない自分がいる。(野球場の雰囲気は好きだけど、5回くらいで飽きてしまう)
 しかし、やっぱり野球ドラマは面白い。主人公である沢村のキャラはユーモラスに描かれ、彼のマウンドでの一挙手一投足に読者はハラハラさせられる。
 
 プロ野球の人気低迷が叫ばれているが、野球ドラマはやっぱり面白い。プロ野球ファンであっても、野球ドラマのファンであっても、誰もが楽しめるエンターテーメント作品だ。(山下惣市)