進化しすぎた脳 中高生と語る「大脳生理学」の最前線 | 今月の10冊

進化しすぎた脳 中高生と語る「大脳生理学」の最前線

▼この本に関する情報▼
進化しすぎた脳 中高生と語る「大脳生理学」の最前線/池谷 裕二 著(朝日出版社)

 脳の本が長い間、ブームになっているが、正直言ってあまり興味がない。脳のことがわかったから人はどれだけ幸せになるんだろうと、思ってしまうのだ。根っからの貧乏性なのだろう。ロマンを解すことができず、楽しめない。宇宙本もそう。宇宙の果てがどうなっているかがわかっても、飢えた子どもが減るわけじゃない。自分でも言っていることがわからなくなってきた……。僕の脳はたぶんそんな脳なんだろう。

 養老孟司さんや布施英利さんの本を読むのは、脳に興味があるんじゃなくて、著者に興味があるからだ。根っからのミーハーなんだろう。そんなこんなで『海馬』も著者の池谷裕二氏に興味があって読んだ。同じく池谷氏の『進化しすぎた脳』は、人間が運動神経と引き換えに知能を手に入れた話や、心と脳の関係など、やはり興味深い。
だけど、いちばん面白いのは、池谷さんが脳にこだわり、謎に挑む姿だ。これを読んで脳の本の謎がひとつ解けた。脳の本というのは、著者=主人公が脳に挑む姿が書かれた本として読むのが楽しい。受け売りするための知識をゲットするために読む本じゃない。そう思うと、宇宙本も、コンピュータ本も、面白いんじゃないかと思えてくる。
多くの人が脳について知りたがる一方で、今や誰も電話やテレビの仕組みを知ろうとする人はいない。普通のことになって便利さだけを享受している。コンピュータだって、90年のインターネット「黎明期」には、いろいろ熱くなっている人がけっこういたが、これも今では、便利さだけが享受されている。そのほうが、人間、幸せなような気もする。
みんなが興味を持っているからという理由で自分も興味がある振りをするのはカッコ悪いし、頭が悪い。池谷さんが脳に集中する一方で、自分は自分で何かを集中すればいい。それが正しい脳の使い方かも。『進化しすぎた脳』は、そんなことを教えてくれる本だ。
(近藤雄策)