反戦略的ビジネスのすすめ | 今月の10冊

反戦略的ビジネスのすすめ

▼この本に関する情報▼
反戦略的ビジネスのすすめ/平川 克美 著(洋泉社)

これまで、多くのビジネス戦略の本を読み、様々な角度からの戦略論の洗礼を受けた。しかし、振り返ってみると実際の現場で戦略を立案・遂行する中で、戦略そのものがビジネスを成功に導いてくれたことはまれだ。むしろ、経験や過去の事例が指し示す方策について、仲間そして第三者と語るためのコミュニケーションの道具として、戦略という表現が単にわかりやすいだけではないのか。そういう思いが募っていたときに、「反戦略」を掲げるこの本に出会った。
「ルールブックをいくら読んでもゲームを楽しんだことにはならない」という著者の主張は、ビジネスのもつ面白さを感じる瞬間を経験した人ならば、きっと共感があるにちがいない。お客さんの喜ぶ顔を見た瞬間、予定通りにプロジェクトが完了し顧客から感謝の表明があった瞬間、そこにあるものはリスクとリターンの関係でもなければ、目標と成果による評価でもない。まさにコミュニケーションの一形態としてのビジネスの原初の姿だ。著者はこうした瞬間を楽しめるビジネスパーソンの状況を、「モノを媒介としなければ自分の気持ちを相手に伝えることができないようなねじれたコミュニケーションを面白がれるところに自分をポジショニングする」と表現しているが、まさにこの態度こそが昨今の多くのビジネス論に欠落している部分だ。本書は、ビジネスにおいて戦略よりも重要なものがあることを思い出すためのよいきっかけになるだろう。
(高橋英之)