USAカニバケツ | 今月の10冊

USAカニバケツ

▼この本に関する情報▼
USAカニバケツ/町山智浩著(太田出版)

1999年の夏からテキサス州ダラスに一年ほど住んでいた。まず、アメリカに着いて驚いたのが、なんとおデブちゃんの多いこと。肥満大国とは聞いていたが、日本にはいないレベルの太っちょが、ごろごろしているのだ。アメリカでも健康ブームなのに、なぜにこの肥満ぶり?

ある太り肉の友人と知り合った。「この牛乳はFAT FREE!(無脂肪)だから健康にいいんだ」と言いながら大量のフライドチキンを胃袋に流し込み、「今ダイエット中だから」と寿司バーへ出かける。彼にとってライスは健康食品らしく、シャリを醤油にたっぷり浸して食べまくる。いつも昼食はポテトチップで、食後にサプリメントをコークで飲むことを忘れない。そりゃ太るわと思うんだけど、本人はいたって真剣なだけに笑ってしまう。

アメリカほど日本に身近な国はない。あらゆる文化が日本に流入している。しかし、それでアメリカを知ったつもりになったら大違い。ブッシュ2期目の大統領就任演説があった。要約すればこの一言につきるだろう「アメリカの自由という理想を世界に普及させる」。確かに、アメリカは自由の国であった。

今回ご紹介する町山智浩著「USAカニバケツ ~超大国の三面記事的真実」には、Newsweek Japanでも、CNNjでも伝えない、アメリカのもう一つの姿がある。アメリカで桁違いなのは肥満だけじゃないのだ。この「USAカニバケツ」には94本のコラムが収録されているが、コラムの数だけ驚きがあるのだ。そのいくつかを紹介しよう。

・ミシシッピー州の33歳の男性は、自分の両足を切断する瞬間をインターネットで中継すると公表した。しかし、それは一人20ドルのカンパを払わないと観られない。カンパの合計が10万ドルになったら決行するという。

・アメリカでは裁判の模様をテレビ放送しているが、殺人犯が警察の尋問に答える映像を放送する番組が始まった。尋問に答えて犯人が語る「モニカがコカイン中毒でラリってナイフ振り回したんで殴ったんだ。(中略)彼女冷たくなってた。ヤバイから切り刻んで、鍋に煮た~(以下酷い内容が続く)」。日本のテレビじゃ絶対に放送できない内容だ。

・正義のヒーロー「バイブルマン」というヒーロー番組がある。武器はキックやミサイルではなく聖書である。悪の貴公子から「エゴ肥大光線」を浴びた人々が嫌なやつになってしまう。そこに登場したバイブルマン、聖書の箴言27章2節から、聖書アタックを繰り出すのだ。

ほんとアメリカは自由。なんでもありかよ!と驚き笑い、そして呆れるてしまうだろう。著者である町山智浩氏は、今年でアメリカ在住7年を数える。氏曰く「スーパーのレジで売っているタブロイド誌を読み、コメディ専門チャンネルの冗談ニュースで政治経済を知り、アメリカを底の方から見ている毎日」であるという。

ハリウッド映画を観ても、ビルボードのヒットチャートを聞いても、そこにあるのはカッコイイだけのアメリカだ。アメリカが世界に誇ってやまない自由。その底辺にある、もう一つのアメリカが「USAカニバケツ」に詰まっている。
(山下惣市)