市場の中の女の子 | 今月の10冊

市場の中の女の子

▼この本に関する情報▼
市場(スーク)の中の女の子/松井 彰彦著(PHP研究所)

気鋭の東京大学教授による近著『市場(スーク)の中女の子』のは、経済学ファンタジーとでも呼ぶべき新しい雰囲気を感じさせる本。多くのビジネスパーソンに一読をお勧めしたい。主人公の本好きの15歳の女の子が、ベニス・アラビア・モンゴルからジパングへと彷徨う東方見聞録風の物語は、軽妙なイラストとあいまってサラサラと流れるファンタジーそのもの。その中に、物物交換から商品貨幣さらには国家信用に基づく貨幣へと発展していく過程、さらには人間の欲望を根源とした需要と供給のバランスの問題など、経済学の根幹となるテーマが配されているのだが、数式はおろかグラフさえ出てこない。逸話の中に各テーマのエッセンスがさりげなく散りばめられ、思わず感覚的な納得をさせてくれる。後段には「文化の経済学」という経済学の中でも新しいテーマが盛り込まれていて、すでに経済学を学んだことがある読者も興味を魅かれるに違いない。「お金も文化も共通に持っている性質」「みんなが従うからわたしも従う」という風に解釈することで考察をすすめる経済学の新しい知見が、物語の狂言回しの説明の中で語られとき、大きな文化的変化に直面しているといえるいまの日本の現状と重なってとても示唆的な響きがある。この分野に更に興味がでてくれば、同じ著者の硬派の著作である『慣習と規範の経済学』にも手を伸ばすきっかけとなるに違いない。(高橋英之)