間宮兄弟 | 今月の10冊

間宮兄弟

▼この本に関する情報▼
間宮兄弟/江國香織(小学館)

「“そもそも範疇外、ありえない”男たちをめぐる、江國香織の最新恋愛小説」と帯にある。ほほう、オタクっぽい兄弟かなんかが真実の愛に目覚める話かね? そう思いながら読みはじめた私の予想は、大きく裏切られることになった。だいたい、コレって恋愛小説なのだろうか?

 主人公は、一緒に暮らす35才と32才の兄弟。もちろん、ともに彼女いない歴は年齢と同じ年数だ。その二人のある夏から冬にかけての出来事が描かれるのだが、たしかに恋愛をめぐる物語ではある。実際彼らは「もう女の尻は追わない」なんて決意するそばから女、否、「女への思い」に振り回されてばかりいるのだ。しかし、むしろ作者のフォーカスは、彼らの暮らし振りに向けられているように思う。彼らの生活は、夏は浴衣で花火をし、冬至にはゆず湯に入る、などというしごく真っ当なもの、真っ当すぎて赤面もいいとこな行為の固まりであり、つまりとてつもなく贅沢なものなのである。そんな兄弟の季節の楽しみ方や趣味へのこだわり、母親との関係性などが、江國ならではのツボを抑えた絶妙な匙加減で丁寧に描かれていく。

 つまりこの作品はストーリーというより分析的な小説なのである。ゆえに、読者が間宮兄弟に共感できるかどうかによって、評価は分かれると思う。正直私は、間宮兄弟にも、まわりの女性たちにもあまり共感できなかった。兄弟の気持ちは分からないでもないのだが、30代の男としてはどうにも子供っぽすぎるし、彼らの家を訪れる女たちの行為にしたって、「その程度の知り合いの家に行かないでしょ!」と突っ込まずにいられなかったからだ。

 そういう意味では、あまりリアリティのある作品とは思えない。これは様々な意味で“ありえない”男たちの、“ありえない”ほど豊かな日々の物語なのだ。恋愛至上主義が横行する現代で、「こんな人達がいたっていいじゃない」という江國香織のファンタジーではないか。(カワキタフクミ)