天国の五人 | 今月の10冊

天国の五人

▼この本に関する情報▼
天国の五人/ミッチ・アルボム著(NHK出版)


ちょうど去年の今頃父が死んだ。私の目から見たところ、父の晩年は決して恵まれているとはいえないものであった。父を思い出して悲しくなるときがある。「果たして、父の人生ってなんだったんだろう」。そう考えると、無性に切なくなってしまうのだ。

ミッチ・アルボムの新著『天国の五人』の主人公エディも、愛する妻に先立たれ、海の見える遊園地でアトアラクションのメンテナンス係として寂しい晩年を過ごす老人だった。そんなエディがフリーフォールの事故によって命を失うところから、この物語は始まっている。

まず本をめくると、こんなことが書いてある。
「たいていの宗教に独自の天国があるように人はみなそれぞれの天国を持っています(中略)この本に書いた天国はひとつの推測、ひとつの願望にすぎません。(中略)この世ではつまらない存在だったと思っていた人たちに、自分がどれほど大切な存在で、どれほどみんなから愛されていたのかを知ってもらう場所ということです」

死んで天国に行くと、先に逝ってしまった五人の人があなたのことを待っているという。それは、自分の人生になんらかの理由で関わった人々だ。遊園地のメンテナンス係として一生を終えたエディ。この物語は、天国でエディを待っていた五人との出会いで綴られている。

長い人生では、多くの人とすれ違う。もはや、心の隅にも残っていない出会いもあっただろう。そしてエディを待っていたのは、意外な人々であった。エディが最初に出会ったある人物がこう語る。

「みんな天国は楽園だと思ってるだろう?雲に乗って、川や山でのんびり過ごすところだって。慰めのないただの景色じゃ意味ないじゃないか。これは神様からの最高の贈り物なんだ。人生に起きたことが分かる。すべてに説明がつく。それこそ誰もが求める平安だ」これがミッチ・アルボムが願う天国なのかもしれない。そして、読者が『天国の五人』読み終えたとき、エディの人生の意味を知ることになるだろう。ムダな人生なんてひとつもないと…。

著者のミッチ・アルボムの前著『モリー先生との火曜日』は、アメリカで600万部、世界各国でベストセラーとなっている。まだ未読の方にはこちらもお勧めである。この『モリー先生との火曜日』はノンフィクションで、大学の恩師であるモリー・シュワルツが死の淵にあって、毎週火曜日に彼のベットの元でミッチ・アルボムとディスカッションされた、人生の意味に関する最終講義である。『天国の五人』はここから出発しているといっても過言ではないだろう。今なら『普及版 モリー先生との火曜日』として発売されている。(山下惣市)