思い出トランプ | 今月の10冊

思い出トランプ

▼この本に関する情報▼
思い出トランプ/向田邦子(新潮文庫)

向田邦子の短編集。
中でも私の一番のオススメは、「かわうそ」

脳卒中で倒れ、右半身に軽い麻痺の残る夫、宅次と、九つ年下の妻、厚子。この子供のいない中年夫婦の話。自分にはもったいない女房だと思いつつも、何か納得できない宅次。かわうそに似た、いつも明るい妻を見ていると、頭のなかの地虫がじじ、じじと鳴き出す。そして、妻のなかにもう一人の女を見つけていく。

たった14ページの中に、まあ、わくわくゾクゾクしちゃうような妻の残忍さがあふれてるの。この作品がすんばらしいのは、とても現実的で全く小説的とっぴな出来事がないところ。そして、やさしい日本語しか使ってないところ。いっけん地味に見えますよ、ただ中年夫婦の日常を書いているだけですから。でも、内容も、文章から臭うにおいも、とにかく意地悪でおもしろいの。

この本、親友のオカマから薦められたんですが、その時の文句はこうでした。「アナタ、絶対好きよ。だってアナタ、性格悪いもん」。性格悪い人は是非、読んでください。ニヤニヤできますよ。
読後、そのオカマと話ました。「絶対、向田邦子って、根性悪だよねぇ。ひねくれてるわぁ。ブスとオカマのひねくれ方なんて、可愛いもんね。でも、この人、天才よね」 (光浦靖子)