電車男 | 今月の10冊

電車男

▼この本に関する情報▼
電車男/中野独人著(新潮社)


 中野独人の『電車男』は「変身・成功もの」だ。電車の中で酔っ払いから女性を救った秋葉原系「ヲタク男」が、やがて女性の愛を手に入れる。「やがて」の過程にあるのが「変身」なのだが、モテない男が集うインターネットサイトで「同士」からの叱咤激励を得て、告白へと行きつ戻りつする……。「実話」なんだそうだ。
 それまで行ったことのない美容院へ行き、メガネをコンタクトに替え、世間並みにワードローブの充実も図る。その結果、女性の愛を、ということになるのだが、読後感としては、「変身」が功を奏したのかどうか、という謎が残る。外見の「変身」が、「ヲタク男」に幸せをもたらしたのか?

 答えは「否」だと思う。

 しかし、外見が変わったって内面は変わらないんだから、結局、中味が大事なんだと主張している単純な小説ではない。外見につられて内面が変化していくのは、読み取れる。それよりも洋服だけでなく、美容院やコンタクトも含めて「お買い上げ」する気持ち良さを描いた小説なんじゃないのか?

 秋葉原で「ヲタク」アイテムに萌えるのも、流行の洋服に萌えるのも「等価」だってことを言ってる小説のような気がする。「等価」という言葉が出たついでに言えば、田中康夫の『なんとなく、クリスタル』にも共通する作品なのかもしれない。
 それと、カッコよく「変身」したのかどうかも謎だ。結果よりも、「変身」しようとすることの快感のほうが大事ということなんだろう。服は変わっても、たぶんダサいままで、彼女に会ってるんだと思う。
 私見だが本当にオシャレな人はちょっとズレているもの。センスが独自だったりするから。と言っても、「ヲタク男」がその範疇に入るわけではなくて、また違うズレ方をしてるんだろうなと思うと、この『電車男』、すごくホノボノした小説に思えてくるのだ。雄策)