温室栽愛 | 今月の10冊

温室栽愛

▼この本に関する情報▼
温室栽愛/狗飼恭子(幻冬舎)

主人公は実家の喫茶店をアルバイトで手伝う、彼氏なし、友達なし、手に職なしのちょっぴり味気ない生活を送る26歳の女の子、佐知。ある日、佐知の働く喫茶店に大学時代の知り合いの桜子がいきなり姿を現し、次から次へと昔の彼氏を呼び出すという奇妙な行動に付き合わされることになる。桜子は誰の子か分からない子供を妊娠しているのだが、子供の父親が知りたいからそうしているわけではなかった……。
映画やテレビドラマにありがちな、偶然の連続やドラマチックな展開はないけれど、静かな日常の中で揺らぐ恋心と友情がオンナゴコロにじんわり染み渡るストーリー。

実家の喫茶店を手伝う佐知がなじみの客に感じる静かな恋心は、正直、最初は恋愛小説の主人公としては物足りなく感じた。しかし、丁寧につづられていく微妙な心の揺らぎは、ここのところ久しく忘れかけていた恋愛の心地よい苦しさ、切なさをリアルによみがえらせてくれた。そして、この『温室栽愛』では男女の愛だけでなく、女同士の愛=友情も優しく描かれている。佐知と桜子、女の子二人の友情が恋心に負けないくらいに熱いのだ。熱いといっても、女の子の仲良しストーリー的な要素は一切ない。むしろ、無愛想で淡々とした関係の中で確実に芽生えている友情を越えた姉妹愛のようなものが、とてもあたたかく心地よく感じた。
読み終えた後、久々に学生時代の親友と「恋愛話」で盛り上がりたいと思った。最近、どんな恋をしているのかな? (トウマキョウコ)