あの頃のこと-Every day as a child | 今月の10冊

あの頃のこと-Every day as a child

▼この本に関する情報▼
あの頃のこと―Every day as a child/川内 倫子、他(ソニーマガジンズ)

前半が、映画『誰も知らない』の、川内倫子によるスチール写真集となっています。

後半は是枝裕和監督、中村航、湯本香樹実、佐藤さとる、やまだないと、
中村一義、島本理生、堀江敏幸、しりあがり寿らが、子供の時間の記憶について
綴っています。

「あの頃」としてあるのは、"子供らしさ"なるものの枠を一旦外して、
柔らかで不安定な感覚そのものを、形にしようという試みのようです。
映画を観ていなくても、別のものとしてゆっくり読むことが出来ます。

どこかですれ違っていたかもしれないのに、
見ないふりをして忘れたことにしていた、ちいさなひとたちへのまなざしを
取り戻すため、又は自らのちいさかった頃の感覚・感情と対話して、
世界への静かな優しさ・想像力を取り戻す為の一冊、と、そっと受け止めました。

生きものとしての根本的な「幸福感」へ繋がる、細い銀色の糸。
後回しにしているうちに、ふっと見えなくなってしまいそうな。

写真は、水に濡れた砂団子のぐじゃぐじゃの感触や、
鉄棒にぶら下がった後の手のニオイなど、
映画の片隅にしゃがみこんで、再び見つけたような気持ちになりました。

エッセイもそれぞれ丁寧に綴られています。
縁日、金魚、迷子について、応援の詩、当時に戻りたくはない、誕生日についてなど。

最後の、しりあがり寿の「あははははは」と笑いながらの全裸のコドモ大疾走の話は、
般若心経のサビというか、「ゆけゆけどこまでもゆけ」のところに匹敵するくらいに、
愛と生命力が大盛りで、大好きな話のひとつとなりました。
(松本典子)