セックスボランティア | 今月の10冊

セックスボランティア

▼この本に関する情報▼
セックスボランティア/河合香織(新潮社)

表題は、<障害者の恋愛を美談として褒めたたえる風潮に疑問>を持った著者が、障害者の性というタブーを取材し、話題をさらったノンフィクション。

まず、導入部分がセンセーショナルだ。脳性麻痺の老人が、彼の命綱ともいえる酸素ボンベをしながら自慰をするビデオテープの映像から始まる。声も出ない、この老人は24時間酸素ボンベが外せない。だが、唯一、風俗店に足を運び、その“行為”をするときのみ、ボンベを外す。性欲とは、命の重さほどにまで大きなものなのか…。性行為もただの日常である健常者には、その必要性や重さを改めて考えることはない。が、障害者にはセックスひとつが闘いであること、それが生々しい描写で描かれていく。臨場感あふれる前半は、著者の筆力の勢いもあって、吸い込まれるように一気に読み進められる。また、障害者に無料でセックスをさせる“セックスボランティア”や風俗業の女性たちを介して性行為を果たす障害者の姿、性介助の先進国ともいえるオランダの現状は話題性もあり、興味をそそられる。

が、それが前面に出ているために、恋愛としての≪障害者の性≫を描いた作品というよりもむしろ、≪障害者と性介助の存在≫を追った作品、という印象が残った。また、取材が困難だったためか、別章でありながら紹介されている人物はそれぞれ同一人物による紹介、といった取材範囲の狭さも見え隠れした。ある一部の周辺にいる障害者を追ったような気すらして、普遍性にも疑問が残った。セックスボランティアの存在は衝撃的だが、障害者の一部の人の性行為であり、大部分ではない。話題性が優先されたのが悔やまれる。

アテネのパラリンピックでの報道をはじめ、世間は障害者を美談として仕立てがちだ。私自身、ある取材で脳性麻痺の障害者の介助をしたとき、スーパーでの買い物ひとつ、障害者には非常に困難なことだと痛感した。手足が不自由ならば排便さえ何時間もかかる。決して美談では済まされない事実が、彼らには沢山ある。だからこそ、障害者の性生活を描くならば、多くの障害者が性生活をどう捉え、世間の目があるなか、どう恋愛に立ち向かっているのかを描いてほしかった。セックスボランティアを利用しながらも、後に健常者の<ゆかりさん>と結婚をした<葵さん>のようなカップルをより多く取材し、その性生活、障害者の恋愛へのハードルなどを綿密に取材し、リアルに描くことが、より障害者を美談ではなく、健常者と同等に考える足がかりになったのではないだろうか。 (春野玲子)