ブルータワー | 今月の10冊

ブルータワー

 『ブルー・タワー』は石田衣良氏初のSFで、氏の作品の中で最長編。小説雑誌用連載アイデアを考えているときに、あの「9・11」が起こったんだとか。
その衝撃の中で作家の想像力は、テロリストたちの想像力をはるかに越え、200年後、2000mの高層タワーという舞台設定が決まった。

 現代から200年後に送られた男がこの世の破滅を救う……。もうこれがギリギリ、バラせるストーリーの限界なのだが、少年テロリストやウイルスが猛威をふるうのは、ある作家の作品群を思い出さなくもない。ある作家とは、村上龍氏のことで『コインロッカー・ベイビーズ』『五分後の世界』『ヒュウガ・ウイルス』が日本の小説世界を広げたうえに『ブルー・タワー』というでっかい塔が立ったとも言えなくはない。そんな気もする。

 しかし、石田氏と村上氏の大きな違いは、石田氏がエンターテイメントを引き受けているのに対し、村上氏は純文学の中で語られてれきたことだ。どっちが偉いとか、そんな話ではなくて、村上氏が『希望の国のエクソダス』以来、決定打を出せないのに対し、『池袋ウエストゲートパーク』でストリートのリアルを、『1ポンドの悲しみ』などで恋愛など一瞬の感情を描いてきた石田氏のタフさは、村上氏のナイーブさと対称をなす。じつは『限りなく透明に近いブルー』が『池袋』と、『ワインの』などが『1ポンド』と対称をなしていると見るのは、考え過ぎだろうか? 余談だが、村上春樹氏の『アフター・ダーク』は村上龍氏がかつてやっていたことに酷似してもいる。

 『ブルー・タワー』に話を戻せば、キーワードは「記憶」だ。忘れるから強くなれる、忘れられないから優しくなれる……。両村上氏も、これまでのいくつも作品でそれをやってきた。そこに石田衣良氏を加えて、日本の小説の大テーマが「記憶」になったのかもしれない。『ブルー・タワー』のサウンドトラックはレディオヘッドの『AMNESIAC』で決まりでしょう。「健忘症の」という意味ですから。 (近藤雄策)

ブルー・タワー
石田衣良著/徳間書店