人脈づくりの科学 | 今月の10冊

人脈づくりの科学

ビジネスにおいて「人脈」という言葉を使うときには、その昔の生保のおばちゃんの血縁地縁をベースにしたセールスや、料亭に政治家を招いての密室工作、あるいは社内の出世街道を駆け上がるための派閥回遊といったものを思いこさせる。

そもそも、人との関りをビジネスのために操作するというような態度そのものに、ネガティブな印象をもつ向きも少なくないだろう。しかし、これまでのビジネスを振返って改めて痛感するのは、人のつながりの大切さとありがたさである。特に、自分とは全く異なる世界に切り込む必要があるときには、人脈はいつも不可欠だった。
そうした体験を再確認させてくれ、しかも人付き合いに自信がないビジネスパーソンにも指針を与えてくれるのが、「世界中の誰であっても、6人の介在で到達できる」というような人のネットワークの理論的分析を専門とする東大助教授の最新刊。

「遠くの人との関係を大切にせよ」「異なる社会圏の人々とのかかわりを大事にせよ」「自然にゆだねず、微調整を試みよう」。理論的な研究から出されたこれらのポイントは、ビジネスにおいて人脈を活用する際に実に示唆的である。例えば、年1度のランチ程度の微調整を意図的に実施してでも維持すべき人脈は、毎日顔を合わせる社内の人脈よりも、いざという時に、はるかに有効に機能してくれることが多い。本書は、ビジネスにおける人脈をもっと戦略的に捕らえるよいきっかけになるだろう。
(高橋英之)

人脈づくりの科学
安田 雪著/日本経済新聞社